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海外発の注目インテリアトレンド、ジャパンディ──日本×北欧の文化が織りなす、新たなミニマリズム

2020年頃から注目度が高まり、今関心のピークを迎えているインテリアトレンドが、ジャパンディ だ。東洋と西洋のテイストが融合する洗練されたスタイルは、日本と北欧、2つの文化に共通する哲学と美学を表している。自然と余白、静謐な美しさと実用性が作り上げるそのタイムレスな魅力に迫る。

日本と北欧テイストを融合したローマン・アンド・ウィリアムス・ギルドのリビング。デザインは「ローマン&ウィリアムス」の創設者であるロビン・スタンデファーとスティーブン・アレシュが、スタイリングは人気インテリアスタイリストのコリン・キングが手がけた。

Photo: Gentl & Hyers

最近、インスタグラムや『Architectural Digest』で頻繁に取り上げられているインテリアスタイルがある。落ち着きのある配色に、わずかな装飾。直線的なラインが美しい家具と、異素材の巧みな組み合わせ。そして部屋にそっと彩りを添える枝物などのさまざまな植物。そこにあるのは余白があり、整然としていながら決して厳かな印象を与えることはない、静謐さとやわらかさを感じさせる空間だ。西洋と東洋、北欧と日本の美学を合体させたこのスタイルは、「ジャパンディ 」という名で今、人気を集めている。

“レス・イズ・モア”の精神を宿す、2つの文化の融合

『Japandi Living』で紹介されている、ウッドチャックのテーブルが目を引く温かみのあるバスルーム。研ぎ澄まされた美しさと機能性を兼ね備えているデザインは、ジャパンディの真髄を表している。

Photo: Wij Zijn Kees Styling: Tinta

「ジャパニーズ」と「スカンディ(スカンジナビアンを意味する俗語)」の混成語である「ジャパンディ」は、注目すべき最新インテリアスタイルのひとつであり、アメリカでも過去最高の検索数を記録している。一般的には日本とスカンジナビア(北欧)、「“レス・イズ・モア”の精神で有名な2つの文化の融合」と定義され、ジャパンディ愛好家である人気インテリアスタイリストのコリン・キングも、「ミニマリズムと静謐さを重んじる2つの文化の自然なハイブリッド」であると説明。「日常にある美しさと自然とのつながりを称え、幾何学的な模様、洗練された色合い、素材そのものの良さを生かしたシンプルなインテリアです」とキングは続けた。AD100に選ばれたデザイナー、ブリゲット・ロマネクも、2つの独特なミニマリストテイストが調和したスタイルであると言う。

インテリアデザイナーのジェレマイア・ブレントによると、ジャパンディの主な特徴は、クラフツマンシップ、テクスチャー、バランスと静寂だそう。これらをインテリアに置き換えると、天然木や土などといった自然素材、ニュートラルなカラーパレットに、装飾品ではなく、花瓶やマグなどの実用的なオブジェをアクセントにした、余白のある空間に表現される。また、自然光も重要な要素であり、フェルメールの絵画のように芸術的に用いられることが多い。

「家具やオブジェは最小限にし、すべてのものに決まった役割を与えることで秩序と一体感、親和性が高い空間が作られます。素材、技術、部屋の使い道を掛け合わせることで決まる、自然との密接な関係から生まれたデザインなのです」とブレント。

ジャパンディ風の空間は、限りなく素朴だ。その代表格として都市型リゾートのアマン ニューヨークリュニフォーム(L/UNIFORM)パリサンジェルマン店インテリアデザイン事務所、「ローマン&ウィリアムス」の旗艦店ギャラリーなどがある。

古くから呼応する、わびさびとヒュッゲの心

ロビン・スタンデファーとスティーブン・アレシュがデザインした家具と照明をコリン・キングがスタイリング。オブジェの素材と技術の魅力を静かに引き出している穏やかな空間からは、自然とのつながりも感じられる。

Photo: Gentl & Hyers

ライラ・リートベルゲン著の『Japandi Living(原題)』によると、ジャパンディの起源は1860年代まで遡る。1863年、鎖国を解いて間もない日本を訪れたデンマーク海軍の尉官、ウィリアム・カーステンセンは、和の文化に深く魅了され、帰国すると自身の経験をもとに記した『Japans Hovedstad og Japaneserne(原題)』を発表。母国のデザイナーたちの興味を掻き立てた。「彼らは、そのまだ見ぬ魅力を自ら確かめるために日本へと渡り、そこで日本独自のわびさびの美意識と、ミニマリズム、自然の素材、シンプルさを大切にするデンマークの“ヒュッゲ”な暮らしとの間に共通点を見出しました。以来、北欧デザインは和の美学の影響を受け始めるようになったのです」とリートベルゲンは述べている。

東洋の文化が西洋のデザインに影響を与えることは、決して新しい現象ではない。19世紀後半から20世紀初頭にかけてヨーロッパでは日本美術工芸品のブーム、「ジャポニズム」がフランスを中心に巻き起こった。そのさらに前の17世紀から18世紀には、中国趣味の美術様式である「シノワズリ」がヨーロッパを席巻し、今でもイギリスのウォールペーパーブランド、ドゥグルネイ(DE GOURNAY)などがデザインに取り入れ続けている。

ジャパンディもまた、この2つのムーブメントのように西洋が生み出したものだ。すでに日本様式の家に住んでいる日本人からは、ジャパンディは基本的に海外発のトレンドとして見られていると『Japanese Interiors(原題)』の著者、飯田美穂子は語る。

しかし、ジャポニズムやシノワズリが、日本と中国の美学を西洋流に解釈したスタイルであった一方で、ジャパンディの軸にある日本と北欧のデザイン哲学と価値観は、昔から共にあった。「地理的に離れていて、異なる歴史を辿ってきたにも関わらず、両方の文化の間には古くから芸術を尊ぶ共通の精神があり、今もなお息づいています」とキングは語る。「北欧デザインは日本の美学によって発展してきました。そして、北欧諸国に根付いている自然を愛する心は、日本美術の中にも見られます。それもあって、2つの文化は簡単に合わさることができるのです」

ジャパンディスタイルを紹介するインスタグラムアカウント、@japandi.interiorも運営する先述のリートベルゲンは、2つの文化は互いを高め合っていけると主張する。「ミニマルな暮らしといえば、北欧か日本のインテリアを思い浮かべる人が多いでしょう。それぞれ違いはあれど、足りない部分を補い合えるのです。日本の洗練されたインテリアに比べて、北欧のものは素朴です。そして、日本のデザインに見られる深みのあるアースカラーは、モノクロを貴重にした北欧デザインに和やかさを与えます。そう考えると、2つがジャパンディというひとつの新しいスタイルになるのは、時間の問題だったのかもしれません」

現代に必要な静寂と安らぎ

ブリジット・ロマネクが作り上げた、穏やかな雰囲気漂うジャパンディスタイルのキッチン。木のぬくもりに溢れた空間からは、安らぎが漂う。

Photo: Gieves Anderson

日本と北欧のテイストを掛け合わせたインテリアは、昔から存在する。では、なぜ今、多くの人の心に響いているのか。

その理由は、ジャパンディが醸し出す、気取らない実用的な雰囲気にあるとキングは考える。彼曰く、テクノロジーが溢れる時代に生きている私たちは、自然を感じさせてくれるものを再び必要としていて、ジャパンディはまさにその欲求を満たしてくれるのだそう。「今では日常のモノが持つ、シンプルで飾り気のない魅力に心動かされる機会が多くなっています」と語った。「ジャパンディの背景にある理念は、私たち全員が必要としている平穏と安らぎを表しています」とロマネクもキングと同じ考えを持っている。

その見解を裏付けるかのように、グーグルによると、ジャパンディへの関心が高まり始めたのは2020年頃。ちょうど新型コロナウィルスが世界的に大流行しだした頃だ。パンデミックによって、私たちは自然やインテリアを今までより大切に思うようになり、より安心感を求めるようになったのだろう。

また、ブレントは、多くのインテリアスタイルとは異なり、何世紀にもわたる歴史を持つジャパンディはそう早く廃れないと言う。「最近は、何十年経っても色褪せないインテリアで自宅を飾る人が増えていて、その傾向は強まっている気がします。ジャパンディは、長く使える、タイムレスで質の良いデザイン選ぶことの大切さを教えてくれる、トレンドを超越したスタイルです。美しさと実用性に根ざした住まいを作り上げることを意味しています」

何年先も愛され続けるであろうジャパンディ 。イサム・ノグチのランプや、洗練されたウッドテーブル、わびさびを感じさせる陶器など、その美学を表すアイテムに投資し始める時は、今なのかもしれない。

Text: Elise Taylor Adaptation: Anzu Kawano
From: VOGUE.COM