宇多田ヒカルのデビュー25周年を記念して実施された全国ツアー「SCIENCE FICTION TOUR 2024」を現代を代表する写真家たちが撮影し、記録に残すプロジェクトが、「HIKARU UTADA SCIENCE FICTION TOUR 2024 NINE STORIES」だ。小説家J.D.サリンジャーの短編小説集『ナイン・ストーリーズ』からプロジェクト名をとった本説集『ナイン・ストーリーズ』からプロジェクト名をとった本企画では、9つのライブ開催地ごとに、異なる作家がそれぞれの視点で“写真の物語”を紡ぎ出しているが、その作品をまとめた写真集も刊行された。
東京会場を担ったのは、写真界のカリスマ、森山大道だ。日々、街路を歩き回り、スナップ写真を撮ることをライフワークとしてきた彼は、世界の表層を刹那的にかすめとったかのような唯一無二の写真世界を創出し、第一 線を走り続けてきた。そんな森山とアーティストである宇多田ヒカルとはある特別な縁で結ばれていたという。
「50年以上も昔のことになるけど、僕は(宇多田ヒカルの母であり歌手の)藤圭子さんを撮っているんです。それに、宇多田さん本人も19歳の時に撮影している。気持ちの中での繋がりのようなものがあったし、宇多田さんからも今回の撮影について特にこうしてほしいというリクエストは言われませんでした」
森山は楽屋での宇多田の姿も捉えているが、バックヤードで撮影が許されたのはこの東京会場のみであったという。「どちらかというとライブそのものより、そういった周辺的な出来事のほうを多く撮影していたかもしれない」と語るが、それも2人のあいだの信頼関係があってこそのことだと言えるだろう。宇多田ヒカルの被写体としての魅力について、「とにかくかわいい。大スターなのに格好つけたりしないし、ざっくばらんなところはお母さんとそっくり。そういう雰囲気は、写真にも表れるものなんです」
森山版の写真集のなかでも特に印象的な一枚──宇多田の後ろにカメラを構える森山自身も映り込んだ鏡越しに撮られた写真は、彼から提案したものだという。「その場のノリで、お母さんを撮った昔の写真と同じ構図で撮ってみないかと、冗談のつもりで言ってみたんです。そうした ら、OKしてくれただけでなく、出来上がった写真集にも入っていたから、驚きました(笑)」。アーティスト宇多田ヒカルと、写真家の森山大道が紡いだ一枚の写真の背後に、不世出の表現者が向き合う緊張感と、時を超えた縁の親密さという、相反する魅力を感じる者は決して少なくないだろう。
9人の写真家が捉えた“光”
デビュー25周年を迎えた昨年、6年ぶりとなる全国ツアー「SCIENCE FICTION TOUR 2024」を行った宇多田ヒカル。開催地に縁のある写真家たちとともに紡いだ9つの物語が写真集として結実した。木村和平(福岡)は「覗見」、鈴木 親(愛知)は「断片(part of)」、細倉真弓(埼玉)は「身体性」、川内倫子(宮城)は「溢光」、森山大道(東京)は「関係性」、John Yuyi(台北)は「自己投射」、Wing Shya(香港)は「カレイドスコープ」、ホンマタカシ(大阪)は「同時性」、 野口里佳(神奈川)は「存在」と、それぞれの視点から、写真という視覚言語を用いて宇多田ヒカルというアーティストの放つ光を捉える。
写真展「HIKARU UTADA SCIENCE FICTION TOUR 2024 NINE STORIES」
会期/3月7日(金)〜3月30日(日)
会場/New Gallery 東京都千代田区神田神保町1-28-1 mirio神保町 1階
開館時間/12:00〜20:00(予定)
URL/https://newgallery-tokyo.com/ninestories_exhibition
ジョン・ユイ「自己投射」
細倉真弓「身体性」
野口里佳「存在」
ウィン・シャ「カレイドスコープ」
鈴木 親「断片(part of)」
川内倫子「溢光」
ホンマタカシ「同時性」
森山大道「関係性」
木村和平「覗見」
写真集『HIKARU UTADA SCIENCE FICTION TOUR 2024 NINE STORIES』
価格/BOX〔B5 変形サイズ 9 冊セット(48P × 9 冊)・レンチキュラーBOX 仕様〕¥15,000 各写真家 単冊〔B5変形サイズ 48P〕各¥2,200 特設サイト/https://newgallery-tokyo.com/ninestories
Photos: © HIKARU UTADA NINE STORIES Text: Akiko Tomita
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